投入堂と炎の祭典
日本一危険な国宝と言われる「投入堂」。
鳥取県の霊山「三徳山」の険しい修験道を登った者だけが見ることができる、標高520メートルの断崖絶壁に立つ謎の平安建築です。
藤森照信×山口晃の「日本建築集中講義」に取り上げられていたのを読んでから、いつか見たいと思っていましたが、10月26日に行って来ました。
10月26日にしたのは、その前日が10月の最終日曜日にあたり、投入堂がある三徳山三佛寺で最大のおまつり「秋会式」の炎の祭典と火渡り神事があったから。
神事と投入堂、両方見られる絶好のチャンスだったわけです。
行くと決めたら、まずは交通手段と宿泊です。
三佛寺のホームページによると大阪からだと、三朝温泉までの直行バスがある模様。
たしかにありました高速バス。これは便利ということで交通手段は決定しました。
※後で気づいたのですが、高速バスの停留所、「三朝温泉口」は三朝温泉街とも路線バスのバス停とも離れていました。三朝温泉街の旅館、三徳山に行くには、倉吉駅で降りて、路線バスにのるのが一番効率的だと思います。
次に宿泊。できれば、三佛寺の宿坊に泊まりたかったのですが、電話したところ、「その日は年で一番大きなおまつりがあるから忙しくて無理ですー」とのこと。
そういうことなら、せっかくだし温泉もということで、ちょっと離れた三朝温泉の温泉宿の中で一人でも泊まれる安い部屋を探して予約。三朝温泉から投入堂までは路線バスがあるということで、宿も決定。
食事はまあ現地でなんとかなろう。準備は完了です。
三徳山三佛寺 秋会式(炎の祭典と火渡り神事)
快晴。神戸三ノ宮からの高速バスは座席の間も広く快適。景色も街から離れるにつれて、秋の山肌が美しく、うつらうつらしてる間に3時間半はあっという間、13時前に倉吉駅に到着。路線バスを探して、炎の祭典が行われているはずの三徳山へ。
※後で気づいたのですが、味のあるデザインの3日間有効のバスフリーパス(1800円)がバスセンターで売ってました。倉吉駅、三朝温泉、投入堂の行ったり来たりには、お得です。ちなみに、バス会社販売の2日間有効のパスもあります。
さて、さぞ三徳山へ向かう信心の徒も多かろうという予想を裏切り、バスに乗り込んだのは僕とおばあさんの二人だけ、と思ったら、発車寸前に地元の女子高生グループが7、8人で乗り込んできて、車中ずっとコイバナ。
んー、今日は三徳山三佛寺の年に一度の大祭のはず。本当にこのバスであってるのかと不安になったものの、女子高生は三朝町役場前で降り、おばあさんも三朝温泉病院前で降り、山道を登り始めるころには、ガラス越しにも霊山の神妙な空気が漂い始めました。
道沿いに駐車した自家用車の列が見えだし、車中に国宝投入堂に関する観光アナウンスが流れるのを聞いた時は、さすがに若干気持ちがアガりました。
じきに意外なほどひっそりとした登り口に到着です。
この階段の上が三佛寺、少なからぬ人の気配を感じます。
結構急な階段が、明日登る予定の投入堂のイントロダクションのようです。
階段を上り、和光院、皆成院などのお寺を過ぎ、もう一度階段を上ると、本堂の前に大勢の人波。まさに、これから炎の祭典が始まるところでした。
今始まるかと思いながら見てるものの、地元議員や町長さんたちのスピーチが結構長く続きます。話を聞いていると三徳山も観光地としてのアピールが一番の課題のようで、集まった地域の皆さんとそれを共有していこうという内容。神事としてのディープさより、ほわっとしたコミュニティ感が広がります。
スピーチが一巡すると、山伏の正装に身を包んだ修験者が東西南北の上空に向けて順番に矢を放ちます。それを拾ったひとは矢を持ち帰って幸運のお守りにするようです。ここものんびりとしたもので、ゆっくりと矢が射られるたびに歓声があがり、見事ゲットした人は嬉しそうに笑ってます。一本は木の枝に引っかかり、みな爆笑。修験道の秘法というディープ感はなく、ゆるーい空気です。
東西南北2巡してその儀式も終わり、ほら貝での合図のあと、いよいよ炎が焚かれます。
相当な樹齢を経ていそうな老杉に囲まれた本堂前。やぐらに積み上げられた緑の束に修験者が火をつけると、みるみる煙が立ち上り、澄んだ山の空気に広がっていきます。
どうやらこの煙を浴びることも霊験があるようです。山伏たちが、般若心経を唱え始めると参拝客も唱和します。
やがて、炎が大きくなると、採燈護摩法要が始まります。ほら貝の音とともに山伏行者達が、あらかじめ集められた願いの書かれた護摩木を次々と火の中に投げ入れていきます。
まだ午後3時くらいでしたが、高い杉木立の中なので、炎の明るさが眩しく映ります。
ばちばちとはぜる護摩木の音、般若心経、燃え上がる炎、凛とした山の空気、土と煙の匂い。五感が刺激される、なかなかの体験でした。
採護摩法要がおわると、いよいよ火渡り神事です。
燃え盛る火の上を素足で渡る修験道の秘法。煩悩が清められ、諸願成就。
今から準備しますというアナウンスがあり、火渡りのための火が焚かれます。道にそって火を燃え上がらせたあと、調節して弱めるようです。
人の波が動き始め、老若男女が本堂前に敷かれたビニールシートの上に靴を脱いで上がっていきます。見渡してみると、ほとんどの人が頭に緑色の鉢巻きを巻いています。
鉢巻きはテントの中で売っているらしく、どうやらそれを巻いているのが、火渡り神事に参加する人のよう。小さいこどもから、80才を超えていそうなおじいさんもいて、ああ、地域の人にとっては、小さいころから年老いるまで、親から子、孫まで世代を超えて何百年も続く行事なんだなと歴史を感じました。
最初は、間に合えば僕も参加して、迷いを払い、煩悩を清めるかと意気込んでいたのですが、階段の上から見渡しているうちに、緑の鉢巻きに地元コミュニティの一体感を感じてしまい、アウェーな気分のまま、輪の中に入っていけませんでした。
まずは、裃をつけた議員さんたちから歩いていきます。修験者が手を引いてサポートしてくれていますが、どう見ても熱そうです。煩悩があると、熱さを感じるそうですが、遠目に見るだけで熱そうだと思うのは相当な煩悩レベルなのかもしれません。
時計を見るとバスの時間が迫っていました。場所が場所だけに、バスの本数も多くはなく、一時間に一本もありません。今日のところは満足。緑の鉢巻きの老若男女が、列を作り始めたあたりで、寺を降りました。明日の朝、投入堂まで登るために、またここに来るのです。
三徳山ー三朝温泉ー倉吉駅は同じバス路線なのですが、倉吉駅のロッカーに荷物を預けていたので、一旦倉吉駅まで戻った後、同じバスで三朝温泉まで。フリーパスがあると便利です。
三朝温泉は、温泉街としては、こじんまりとした落ち着いた印象で、ゆっくりするにはとてもいい感じです。川沿いの眺めもよく、気に入りました。
投入堂
いよいよ、念願の投入堂参拝の日が来ました。旅館の窓を開けると、登山の大前提となる天気は快晴。良い日になりそうです。
投入堂に登るには、いくつかの条件があります。
- 雨が降っていないこと
- 服装が登山に適していること。特に靴は、トレッキングシューズなど滑らないもの
- 一人での入山は禁止。最低2名以上で登ること
- 入山時間は8時から15時の間
1はクリアー。2は靴がスニーカーでしたが、現地で売っている草鞋に履き替えるつもりなのでOK。一番の心配は3でした。近年、2年に一度くらいの割合で、滑落による死亡事故があるらしく、安否確認のために最低2名で登る決まりになっています。
今回は一人旅なので、現地で同行者を見つけなくてはなりません。平日だし、すぐに見つかるものやら検討がつかないため、とにかく朝イチのバスで投げ入れ堂に向かうことにしました。
月曜日、朝8時のバスには運転手さんだけ。同行者が見つかるか若干不安がよぎります。
昨日あれだけの人がいた三佛寺ですが、今日は誰もいません。受付案内所でまずは、三佛寺への参拝料金を払おうと、竹ぼうきで庭を掃いているおじいさんに声をかけます。無言で案内所に入ってくると「登られますか?」とひとこと。
「はい。」
「一人じゃ登れませんからね。」
「知ってます。なので、同行者を見つけようと思ってるんですけど。」
「見つかればいいけど、なかなか見つからなかったら参拝料が無駄になりますから。あなたも予定があるだろうし。ここで待ってて、同行者が見つかってからお支払いになったらいかがですか?」
「一日に何人くらい来るんですか?」
「日によります。何百人も来る日もあるし、雨が降ったら20人くらい」
「まあ、でも今日は投入堂だけの予定なので。とりあえず入って、登山口で待ちます。」
「そうですか。時々振り返って、人が来ないか確認した方がいいですよ。」
んーなかなか難しいなと思いながら、料金を払い、階段を上ると、軍手を売っていたのでとりあえずお金を入れて一組とります。
昨日と同じ階段をのぼり、本堂を過ぎて、登山受付の前まで来ると、待合のテントがあり、投入堂のドキュメンタリーがテレビから流れています。ここまで来て、さっきの受付で待っていた方が、登山者に確実に声を掛けられるような気がしてきました。
参拝料は払ったけれど、一旦出て、目の前で同行者を待ってても、細かいことは言われないだろうと、登ってきた階段を下りかけると、ニット帽にリュック、トレッキングシューズを履いた男性がひとりで階段を登ってきます。近づいて「投入堂に登られるんですか?」と声をかけると「ええ。さっき受付の人から、ひとり上で待ってるからって言われました。」
という返事で、あっさり同行者が見つかりました。
話を聞くと、プロの山岳ガイドの方で、来週、団体ツアーのガイドとして投入堂に来るので、下見に来たとのこと。ひとりでは入山できないことを知らなかったようで、お互い助かったというわけです。
さあ、いよいよ登山です。
二人で登山事務所に入っていくと、受付の若いお兄さんがさわやかに迎えてくれました。
簡単な注意事項の説明を受け、名簿に名前、連絡先、入山時刻、そして、事故があった場合の連絡先を記入します。
200円の登山料を払うと、輪袈裟(わげさ)というたすきを渡されます。投入堂への道は、あくまでも観光でなく修行なので、袈裟をする必要があるのです。お守りの意味もあるのかもしれません。いってらっしゃいと送り出されそうになったのですが、気がかりなことがひとつ。
「あの、靴がだめだと思うんですけど」とスニーカーを見せると、
「んー。今日の天気ならオッケーです!」
えっ!ぜんぜん街歩き用のスニーカーなんですけど!しかし、受付の人がOKというものを、だめでしょうというのもはばかられ、そのままスニーカーで登ることに。
ここで同行の男性が、受付の人に質問をしました。
「来週、団体を連れて来るんですが」
「団体さんですか・・。何人くらいですか?実は昨年、団体さんで・・・」
「知ってます。下山したら一名いなくなっていたっていたっていう。」
どうやら、団体ツアーの客で、投入堂に参拝後、下山してから滑落者がいたことに気付いたという事故があったようです。その方は滑落した時点で助からなかったということですが、気づいたときから見つかるまでのことを想像するとちょっと背筋が寒くなります。危険とは聞いていたものの、登山直前にそういう話を聞くと、さすがにリアリティが違います。
しかし、ここまで来ると怖いというよりも、集中力が高まる感じです。準備はOK、出発です。
橋を渡って門をくぐります。
登り始めから、噂にたがわぬ険しい道が続きます。同行者は山岳ガイドなので、装備も完璧、効率的にどんどん登っていきます。こちらも付いていきますが、なにせ街歩き用のスニーカーなので、時々滑ります。なんだかんだで足場は見つかるのですが、足元が不安なのと、勾配が急なため、ほとんど手をついて、全身で登る感じでした。
やがて、現れる中間地点の文殊堂。鎖をつかんで登ります。こういうところは、手の力でなく、足の力で登るつもりの方が安全らしいのですが、勾配が急すぎるので、結局腕力で登った感じです。女性には結構きついのではないでしょうか。
しかし、文珠堂からの眺めは最高でした。紅葉にはもう少しというところでしたが、こんな景色は、なかなか拝めるものではありません。
安全用の柵などないので、体の前に何もないというのも、この開放感の理由だと思います。一周ぐるりと回れて、「落ちたら確実に死ぬ」ポイントもあるのですが、意外と怖さを感じないのは修行の道中だからでしょうか。
と思って、同行者に取ってもらった写真を後から見ると、ぴったり壁にくっついていましたので、体はしっかりびびっていたのだと思います。
文殊堂の後は、勾配は緩やかになる代わりに、通れる道が狭く「両脇が谷になってる平均台」を渡るような難所が続きます。この辺りは、さすがに写真を撮る余裕はありませんでした。
途中には、鐘撞堂や観音堂などのそれぞれ謎めいた建物があります。
そして、観音堂をすぎて、岩陰をまわると、突然開けた眺望に投入堂が現れました。
写真では見ていましたが、実物を見ると周囲の崖も含めたスケールの大きさに、そこに建っていることに、なんだか現実感がありません。むき出しになった骨組みや、柱、平安風の茅葺屋根など、あらかじめ見たいと思っていた建築的な見どころもあったのですが、そういうディテールにも目がいかず、ただ不思議な感じにうたれながら、見上げていました。
しばらく、時間を過ごしたあと、同行者に記念撮影をお願いして、下山です。立ち去る間際に再度振り返って、これが参拝だったことを今更思い出し、投入堂に手を合わせます。
帰り道は、一度登ってきたコースなので、ある意味不安は少ないのですが、当然下り坂の方が滑りやすく危険です。知ってる道なので、緊張感が薄れるのがかえって危ない。滑落事故もほとんど下りの道で起きているということですので、あくまで慎重に、急な勾配は、後ろに手を突きながら降りて行きました。
文殊堂横の鎖坂は多分下りには使わないのですが、同行者である山岳ガイドの「懸垂下降で行きましょう」のひとことで、鎖をつかんで下ることに。
一応やり方を説明されて、体を岩からはなして足をぴったり岩につけて降りるように言われたのですが、スニーカーが滑るので結局腕で体を支える感じで降りて行きました。
ときどき足が滑ると、先に降りた同行者が「気を付けて!」と叫んでましたが、「そもそも、ここ下りるとこじゃないし!」と心の中で返していました。もっと距離が長かったら、危なかったと思います。
なんだかんだで、無事下山。輪袈裟を返し、下山時間を記入した時に、一気に緊張が解けました。
受付の人の話では、今は気候的にベストシーズンのひとつだそうで、春や梅雨時などは、地面も湿っていてもっと滑りやすいそうです。スニーカーでOKが出たのも一番登りやすいコンディションだったからのようでした。
平日の朝早い時間だったおかげで、他の登山者もほとんどおらず、1時間半で往復しました。戻りの道中ではすでに人が増えてきていたので、昼頃には、狭い道は渋滞状態になるのかもしれません。まあ、並んで通れるようなところはないのですが。投入堂は、ちょっと無理しても朝イチがおすすめです。
投入堂から無事下山した安心感の中、心地よい疲れとともに、本堂や宝物殿などを見学。仏像を鑑賞したり、三佛寺の歴史の解説をゆっくり読んだり、お土産を買ったり。
ゆっくりと階段を下りて、三佛寺を後にし、周辺をぶらぶらしたあと、100年以上の歴史があるという老舗の食堂「天狗堂」へ。山菜と名物の三徳豆腐を使った天ぷら定食。本当はお寺の精進料理が食べたかったのですが、むしろこっちで良かったというくらい美味しかったです。
あとはバスで温泉街に帰って、ゆっくり散策でもしながら、夕方になれば外湯巡りでもして・・・などと考えながら、バスの時間を調べると15分後の出発。次のバスは一時間半後。
・・・んー、でも間に合わないなあ。まだ天ぷらいっぱい残ってるし。急ぐ用事もないし、ゆっくり食べたいし。
・・・・あと5分。あと天ぷら3個か。
・・・・あと3分。バス停すぐそこだし・・・間に合うかも。
残りの天ぷら2個を口に放り込んで、バッグをつかんで立ち上がりました。
バスまで2分。店は座敷だったので、縁側でスニーカーをひっかけて、店から車道まで一気に下りました。あと一分。間に合うか。ウェストポーチを腰に巻く暇もないまま、両手に荷物をもってアスファルトの道を駆けました。
バス停が目に入り、間に合う!と下り坂に足を速めた刹那、足がもつれ左足がつま先から内側に曲がりました。左足に激痛を感じながら、バス停に到着すると、同時にバスが入ってきて、足をひきずりながら無事搭乗。
座席に座ったものの、この時点でちょっとやばい痛みだという気がしました。10分程度で温泉街につき、降りようとすると、再び激痛が走ります。
とりあえず、温泉街には着いたものの、宿まで歩けそうにありません。その時バス停の目の前に足湯があることを思い出しました。
野生動物は傷を負うと本能で温泉につかって傷をいやします。ここは野生動物に従うべきだと、とりあえず足湯まで歩いて行って、痛めた左足をお湯につけます。
とはいえ野生動物ではない現代人、スマホを取り出し、捻挫についてググると「お風呂は厳禁」の文字。間違ってるじゃん!と慌てて左足をお湯から引き抜きます。さらに調べると、とりあえずすぐ病院で見てもらう必要がありそう。ここで思い出しました、確か先ほどのバス停の次の次は「三朝温泉病院前」だった!。調べてみると三朝温泉病院には整形外科があります。なんとかバス停までもどり、バスを待ちます。温泉街までもどるとバスの本数も多く、すぐにバスが来ます。
やってきました三朝温泉病院。
受付で保険証を出すと、「受付時間外なんですが」と言う説明。
絶望にとらわれながら「さっき捻挫したんですけど・・・」と言うと、明らかに歩けない様子を見て、内線をかけてくれ、「診察します」という天使の声。
問診表に状況を記入して看護婦さんに渡します。
「耐えられない痛みが10だとすると、今どれくらいですか?」
「8・・・7ですかね。」
と、言いながら診察室まで歩こうとしましたが痛みで歩けず、車いすに乗せられます。
順番待ちもなく、すぐ診察。先生の名札をみると院長先生でした。
足首を触って「痛みますか」「いいえ」。
足を曲げてみて「痛みますか」「いいえ」。
「んー・・・・。」
足の甲を触られると痛みますかと聞くまでもない反応。
「んー。骨折してますねえ。」
「骨折・・・・・・ですか????」
「多分」
部屋を移動し、レントゲンをとってもらったあとの気の使われ方で、不安は確信へと変わります。再び診察して、第5中足骨骨折が確定しました。
旅行中で、明日、大阪まで帰る旨を先生に説明すると、看護婦さんも一緒にずいぶんと心配してくれ、なんとか負担の少ない方法を考えてくれました。
松葉杖では移動に困るでしょうと、ギプスの代わりにギプスシーネという簡易ギプスでなんとか松葉杖なしの簡易処置を施してくれようとしたのですが、結局松葉杖なしは無理だろうということで「あなたを信用しますから。後で送ってくれればいいから」と、病院の松葉杖を貸してくれました。
やっぱり都会の病院とはちょっと違う暖かさを感じました。
こんなところで、旅先の人情に触れるとは、なかなかない経験です。松葉杖の使い方を説明してくれたリハビリ担当の若い女の子の三朝弁が、全く聞き取れなかったのも良い思い出になりました。
じゃらんに「三朝温泉病院」があれば、5点あげたいと思います。
病院を後にして再びバスに乗り、カランコロンと下駄がなる温泉街へ、松葉杖の音を響かせながら片足をひきづり宿までもどり、「投入堂の無事下山+バス停で骨折」をメールとSNSで関係各所に報告しました。
たくさんの心配と、「投入堂行って、そこで骨折!」という突っ込みと、哄笑を頂きながら、眠りにつきました。
10月27日(火)
翌朝は、朝食を持ってきた仲居さんに、
「昨日は晴れて良かったですねえ・・・あらあ!どうしたんですかあ!!」
というお約束のリアクションを頂き、「駅まで送迎バス出しましょうか」という親切なお言葉もいただきましたが、せっかくの旅の最後はせめて駅までゆっくり帰りたかったので辞退し、いろんな意味で名残を惜しみながら、倉吉駅を後にしました。
高速バスと阪急電車で地元に戻ったその足で、近くの病院に行ったところ、ギプスをやりなおし、両松葉杖で全治一か月となりました。
初めての骨折、松葉杖で、2週間経ちましたが、なんだか、この骨折のために投入堂への旅がまだ終わってないような感じがします。
骨折がなければ、すんなりと楽しい旅行で終わってたはずですが、そうはならずに、色々と考える機会を与えられたというのは、投入堂が修行の場だということを考えると、むしろ意味があることではないかと半分本気で思います。
そう思いながら、またそのうち、もう一度、三朝温泉と三徳山三佛寺を訪れたいと思うのでした。