観ないとソンダと思ったので

だれでも発信できること自体が良いことと聞いたので、美術展や映画、音楽などの感想など書いてみます。

苦海浄土

池澤夏樹が編纂した世界文学全集に日本人作家で唯一選ばれたのが石牟礼道子の「苦海浄土」。
「まずもってこれは観察と、共感と、思索と、表現のすべての面に秀でた、それ以上に想像と夢見る力に溢れた、一個の天才による傑作である。読むたびにどうしてこんなものが書き得たのかと呆然とするような作品である。」(池澤夏樹


作家、石牟礼道子逝去をつたえる短いニュースは、水俣病患者の救済活動と合わせて語られるので「苦海浄土」が社会問題を取り上げた重たい文学だと思われるのは当然だとしても、読んでみれば他の何にも在り得ない美しい表現に溢れた小説であり詩であり、また当然それだけではなく、大企業と個人、中央と地方、病と信仰、科学と人間と自然など、今読むべきこと、これから読まれるべきことが、圧倒的な純度と密度で同時に存在している作品です。読み終わっても、いつまでも、水俣の海の輝きと、漁師たちの語りが遠くに、近くに存在するような気がします。

世界文学全集刊行時のインタビュー
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チッソの病院の院長先生でいらっしゃいました)細川先生がご臨終のときにおっしゃいました。「僕はあなたとお会いするのに、美しい話をしたかったんです。今度生まれたときはそういう美しい話を出来る立場で。お互いに。この世を去るのに、それが一番気がかりでございます」と先生がおっしゃいましたことが私を励まし続けてきたように思うんです。それで、人が美しく生きるということはどういうことかというのを、ずっとテーマで水俣病を題材に書きましたのに、それが、本当のテーマというのは、美しい話をどなたとでもできるという・・・できるようになりたいものだ、ということが悲願のようでございまして・・悲願のようでございましたけれども、うかうかと歳をとってしまいまして、一体何をして私は生きてきたんだろうと、思うんですね。
それで細川先生と、あの世でお目にかかれると、私は思い込んでおりますので、残りの余生をそのように生きられたらと思って今に至っております。
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とにかく、「苦海浄土」という文字は日本語のネットの海にも一つでも多く存在すべき文字で、一人でも多くの人が興味を持って手に取るべき本だと思います。